コミュニティサイクルは日本で有効なのか?2
2007年にパリでコミュニティサイクル「ヴェリブ」が導入されると、それまで自転車にほとんど乗ったことなかった人々が一斉に乗り始め、自転車のルールを知らずに歩道走行、逆走、信号無視、慣れない自転車でふらふら走る人々が街中に溢れた。それが原因で交通渋滞も頻発し、ごうごうの非難が起こった。
しかし、パリ市民は賢かった。数ヶ月もすると渋滞する車をあきらめ、公共交通や自転車に乗り換える人が増えた。また、「ヴェリブ」に乗ることで自転車が役に立つことに気付いた人々が自分の自転車を購入して乗り始め、「ヴェリブに客を取られて自転車が売れなくなる」と反対していた自転車店の売り上げも上がったのだ。
パリにおいて「ヴェリブ」は大成功だったし、多くのヨーロッパの都市でも同じだろう。
しかし、同じ事が日本で起こったらどうなるだろうか? コミュニティサイクルなど導入しなくても既に街中にルールを守らない、使い捨て感覚の安い「ママチャリ」が大量に溢れている。これは日本だけの特殊事情だ。それで人々は自転車の良さを見直し、自転車が交通手段として認められるようになっただろうか? 結果はヨーロッパと全く逆だろう。自転車が歩行者感覚で使われることで、自転車のルールやマナーを守らなくなり、さらに重たくスピードの出ない安物のママチャリしか乗ったことがなく、本当の自転車の良さを知らない人々がほとんどになった。「自転車とはしょせんその程度のもの」と思われて、歩く替わりの非常に短い距離でだけしか使われず、また安いものなので使い捨て感覚でろくに整備もせず、その辺に平気で放置して、盗られたら新しいのを買えばよいという非常にいい加減なのものになってしまった。
ルールやマナーが守られず、むしろ社会の迷惑と思われ、つい最近まで行政も自転車を敵視し、自転車利用環境の整備を進めるどころか、むしろ自転車を制限しようとさえしていた。最近、多くの自治体が自転車が使いやすいまちづくりを進めようとしているが、一般にはまだまだ自転車は邪魔者と思っている人の方が多いだろう。
そんな中でコミュニティサイクルが大々的に導入されたらどうなるだろうか? 元々自転車利用者にルール遵守の意識はないから、パリで起こった以上に街中にルールやマナーを守らない自転車が溢れ、今以上に自転車が悪者になる。自分の持ち物ですらなく、非常に安く使える自転車が溢れることで、今よりもっと使い捨て感覚のいい加減なものになってしまう。日本の自転車行政最大の過ちと言われている、40年前に自転車の歩道通行を認めたことの結果、自転車をゲタ感覚の非常にいい加減なものにしてしまったことの再来になるだろう。
日本で必要な事は、自転車利用環境すなわち、安全に走れる環境や停められる環境を整備していくこと、そして自転車利用者、クルマ利用者の両方に対して自転車のルールやマナーの教育の機会を増やし、さらにいい自転車に乗ってもらう機会を増やすことで、人々の自転車に対する意識を高めて行くことだろう。そして、自転車のルール・マナーがそれなりに守られ、自転車は決して邪魔者ではなく、大切な交通手段で、自分たちの役に立つものなのだということがある程度浸透した段階でコミュニティサイクルを導入する。それでこそ、コミュニティサイクルが日本の社会で有効になる。その順序を忘れてはならない。
執筆者
合同会社自転車ライフプロジェクト 代表 藤本芳一
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